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 ■ 列伝モード・蜀伝


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 ▼趙雲伝▼

子龍的視点 〜長坂単騎戦〜

文責:つばさ


私は趙雲、字は子龍と申します。

劉備殿の配下武将であり、主君である殿のご家族の護衛を承っております。

この度、我が殿が曹操軍の襲撃を受けて退却を余儀なくされてしまいました。

その際に、ご子息である阿斗様が逃げ遅れ、

敵陣に取り残されてしまったのです。

御子をお救いすることが私の使命・・・。

それに、阿斗様は、殿の・・・、劉備殿の・・・たった一人のお子様なのです。

ひょっとしたら我が殿の跡継ぎになられるかもしれない、

そんな、私たちの未来への希望たる御子なのです。

我が命に代えても、救出せねばなりません!

*     *     *

曹操軍に怪しまれないために、

私は単身で阿斗様が取り残された砦に向かいます。

報告によると、阿斗様は箱の中にお隠れ、とのこと。

箱の中に入らなければならない状況になるなんて・・・、

おいたわしや・・・、一刻も早くこの趙子龍が助け出してみせますぞ!

しかし、近くにある箱を捜索しても阿斗様の姿はお見受けられません。

ああ、阿斗様はどこにいらっしゃるのでしょうか、ご無事なのでしょうか?

劉備殿のことも心配です。

殿も敵に追われている身・・・、いつ敵の手に渡ってしまうかわかりません。

お二人とも、私がお救いせねば・・・。

しかし、必死の捜索も空しく、まだ阿斗様は見つかりません。

もはや、これまでか・・・と絶望感に襲われていたところ・・・


ある吉報が。

諸葛亮殿の援軍が到着なさったのです!

殿のこと、私が来るまでお願いいたします、軍師殿。

そして、こちらでも、良いことが。

阿斗様を発見することができたのです!

それにしても、このような危険な場所にいながら、

おとなしい阿斗様のご様子・・・我が殿の御子ながら、さすがです。

将来、大物になるやも知れぬ。

このような未来ある御子に、大事があってはならない、

と、自分の懐の中にしっかりと阿斗様を抱きました。

その後は、本当に無我夢中でした。

大群が押し寄せてくる中、ただひたすら槍を振り回していたことしか思い出せません。


気が付くと、もう砦を抜けてました。

しかし、まだ安心はできません。

曹操軍の援軍が到着したようなのです。

曹操は私を狙っているらしく、敵がわっと私の前に姿を現しました。

落ち着け、落ち着け、まずは殿たちと合流せねば・・・。

殿、軍師殿、ご無事ですかっ!?

・・・良かった、二人とも大したお怪我はなされて無い様子。

しかし、まだこれからです。

曹操の大軍が迫っているのです。

殿も軍師殿も、戦闘には不馴れな身、ここは私がやるしかない!

またしても、大切な人たちを守るため、ただただ槍を振るい続けました。

敵はすべて、私が蹴散らしました。

人間、大切な何か、使命、のためにはここまでできるのか・・・

と自分自身で、自分を見直し、そして少し怖くなってしまいました。

さて、私自身の話はおいときましょう・・・、

殿は無事に長坂橋を抜けたようです。

本当に良かった・・・。

*     *     *

私もその後を、追い、長坂橋へいくと、そこには殿の姿が。

「遅くなりました。御子はご無事に・・・」

と大切に抱いていた阿斗様を殿の元へお渡ししようとすると、

殿は私の顔をじっくりと見つめ、そして慈悲に満ちた笑顔でこう仰いました。

「我が子などよいのだ・・・それよりも

私はそなたの無事が何より嬉しく思う」、と。

面を上げることもできず、私はこみ上げる涙を抑えることができませんでした。

あなたのような方のもとにいられて、私は本当に幸せ者です・・・。


内容

 ▼関羽伝▼

美髯公的視点  〜徐州防衛戦〜


文責:鳳雪連


「敵の侵入を食い止めるのだ!皆、拙者の銅鑼の音を合図に駆けつけよ!」



拙者は姓を関、名を羽、字を雲長。

今、拙者はただならぬ危地に対面していた。

ここ、徐州の城に押し寄せる曹操軍…戦況は、決して

楽観できるようなものではない。

だが、拙者はここで退く訳には行かぬ。

兄者や翼徳がカヒ城での戦闘での敗走を最後に

消息をたった今、この徐州の城に残された

姐上をなんとしてもお守りせねば…




押し寄せる敵兵を堰月刀で薙ぎ払う。

城門が破られる度に銅鑼を打ち鳴らす。

姐上の馬車を比較的安全な水路の向こう側へ移動させる様指示を送る。

その度水路から侵入した敵の奇襲部隊を打ち払う。

そんな事を何度も繰り返した。

その間、周倉や関平の軍が到着し、城門の敵を押さえてくれているが…

限界は、確かに、確実に近づいている。

拙者達は徐々に、確実に消耗していた。

そんな時。伝令役の兵士が叫ぶ。

「伝令!南より魏の大軍が現れました!」

その言葉通り、南にいくつもの青い旗がひしめいていた。

その傍には無数の青い鎧を纏った魏の兵士。

僅かな時を思考に傾ける。

‥これをしのぎ切るのは無理、か。ならば…

次の瞬間、拙者はあらん限りの声を張り上げた。

「‥城を捨てよ!手薄な北から脱出する!」




拙者は馬車と共に城を出た。

だが、敵もさるもの。手薄と見えた城の北で

進むごとに伏兵が現れ襲いかかる。

あと少し、あと少しなのだ…

そして、ついに伏兵を全て振り切ったと思った刹那。

拙者と馬車の間に一頭の軍馬が割り込む。

その馬上の人間に、拙者は見覚えがあった。

「関羽殿!今は強情を張る時ではなかろう! ご夫人の安全はこの張文遠が保証する!」

張遼め、姿が見えぬと思えばこんな所に潜んでおったのか…

この男は相当の使い手、ここでこれ以上戦ったとしても、姐上の身に障るだけ…致し方あるまい。

一瞬の沈黙。

心の中で兄者達に詫びを入れて、拙者は眼前の将に言った。

「‥よかろう、張遼よ!兄者の行方知れるまでこの関雲長、一時漢の御旗に降ろうぞ!」



‥すまぬ、兄者、翼徳……




 →内容

 ▼張飛伝▼

虎髭的視点  〜長坂橋防衛戦〜


文責:つばさ


よお、俺様は燕人、張飛。

酒と戦と兄者が好きな最強の男よ!

昨日なんて、酒大杯十杯は飲んだぜ、ヘッヘッヘ。

えっ、戦の前に酒を飲むな?

堅えこと言うなよ、大体、酒も満足に飲めねえ奴は武将失格だぜ。

しかしよお、酒飲んで気分よく行きたいところだが、

大変なことになっちまったぜ。

兄者が曹操の野郎に追われて逃げてるんだ。

兄者、ここは俺に任せておけ!

曹操の軍隊何ざ、俺様一人で蹴散らせてやるぜ!!!

*     *     *

そうやって、長坂橋の前に立ちはだかる俺様、我ながら漢の中の漢って感じだな!

それにしても、曹操軍とはいっても、大したことねえな。

「まだやろうってか!この燕人張飛、酒と戦は底なしだぜ!」

ってちょっと言ってやっただけで、うわあああ、と逃げていきやがった。

ヘン!腰抜けどもばかりだぜ!

俺様の強さに恐れをなしやがったか、さすが俺様、がっはっは。

長坂橋の前の敵は全部俺が蹴散らせた、さあ、反撃と行くぜ!

へへっ、待ってろよ兄者、俺様が曹操の奴を倒してやるからな!!!

おーっと、敵の援軍が来やがった。

でも、俺様の敵じゃねえ、あっさり蹴散らせてやったぜ。

それにしてもよお、曹操軍にはヘンな奴が多かったなあ。

眼帯付けた奴や、中年太りしてる奴はともかく、

明らかに太りすぎな奴や、

胸にでかでかと「徐」って書いてある奴

(え、俺様も「張」って服に書いてあるって?俺様はいいんだよ、俺様は)

を見たときは正直目がテンになったぜ。

極めつけは、爪付けた女みたいな野郎だな。

いきなり「あなたは少々美しさに欠けますね・・・」と言われた時は、

どう反応していいのか、マジ分からなかったぜ・・・。

おめえみたいな華美な奴には、俺様の肉体美は理解できねえんだよ!

暴言といえば、最初に来た奴とは別な中年太りした奴が、

「貴様のような暴威の輩が世を乱すのだ!」って説教こいてきやがった。

うるせー、俺様は暴威の輩なんかじゃねえ、義に燃える最強の男なんだよ。

まあ、こんな濃い連中を倒していったら、

ついに曹操のお出ましってわけだ。

曹操の野郎、よくも兄者にひでえことしやがったな!

覚悟しやがれ!!!

おらおらおらーーーっ!!!

*     *     *

へっ、曹操も俺の蛇矛の一撃に退散していきやがった。

今日はこの辺で勘弁してやるけど、次は無いと思いな!

あ、兄者無事かーーー!!!

良かったぜ、劉備兄者たちはすでに船で無事に脱出できたみたいだ。

「これより我々は孫家と組み曹操を討つ!見ておれよ・・・」

さすがは兄者、かっこいいぜ!!!

今回の戦の一番手柄の俺様へのご褒美は、酒を頼むぜ、兄者!





内容

 ▼諸葛亮伝▼

武郷侯的視点  〜月英獲得戦〜


文責:案山子


要害の地・漢中。この地は、張魯を教祖とした、五斗米道という教えが広まっていた。

五斗米道は、張魯の祖父・張陵の代が開祖して、その子供の張衡、そしてその子供が、張魯である。

張陵の生没年は、なんと34〜156と伝わっている。もし本当のことなら、ギネス物である。

まあ、昔のことだから到底信用は出来ない。教徒を増やす為のガセネタという確率が高い。
 

男が、雄々しい馬を駆っていた。歳は、20代前半といったところか。

頭に冠巾を着け、手には白鳥の羽で拵えた羽扇を持っている。その後ろから、更にもう一頭が続く。

『ここかな…?』

小さな小屋の前で馬を止め、男はゆっくりと地面に足を降ろした。目が澄んでいて、もの静かな感じだった。

どこか仙人のような気を体の中に持っているような男だった。

『孔明殿――!』

後ろから走ってきた馬が、近くまで来て脚を止め、その馬の上に乗っていた男が、同じようにゆっくりと馬から降りた。

『孔明殿、もう少しゆっくり走ってくだされ。この老骨にはきついわい』

ハァハァと息をきらしながら、老人が言った。

『黄承彦殿、すみません…。とても気になっていたのです』

『まあ…いいわい…』

まだ男は息をきらしている。年のせいだろうか。

『それで、この小屋にその娘さんはいらっしゃるのですか?』

目の前の小屋の方を向いて男が訊ねた。

『おう、夜はいつもはそこにいるわい。ただ、今はいるかわかりませぬのう…。しょっちゅう獲物を獲る為に出かけますからな』

やれやれと溜息をついて老人が言った。

『男勝りの御方なのですか…?』

静かに訊いた。

『ホッホ!そりゃあそうですな。独り立ちする前は頑固者な娘でした』

時折、老人と静かな言葉を交わし、滑稽を感じて、健やかな笑みを顔に表わすこの男は、誰であろう。

後に、三顧の礼で、劉備の軍師として迎えられる、姓は諸葛、名は亮。字は孔明である。

今日は荊州の名士・黄承彦が、皺だらけの顔で精一杯笑顔を作り、

『自分の娘を嫁にもらわないか』

と、突然言ってきたのである。その為に、黄承彦の娘が、供と共に修行をしているという、漢中にやってきたのである。

その娘の実力・才知を、どの程度のものなのか知ることが、諸葛亮の最も興味深いことだった。


 
『では、私はこのへんで…』

そう言い残して、黄承彦は年老いた体で馬に跨り、そのまますぐに去ってしまった。諸葛亮は、家の前でずっと待っていたが、いっこうにかの人は現われない。

やがて、外が暗くなり、冷たい風が吹いてきた。獣の嘶きも聞こえてきた。その声を聞いて、諸葛亮は危機感を感じてきた。

(外で待っていても、危ない。獣に襲われるかもしれない。悪いが中に入らせてもらうか)

そう思って、小屋の中にかけ込んだ。

小屋の中には、無駄な物が一切なかった。其れを見て、諸葛亮は内心、妻になるかもしれないまだ見ぬ娘を期待した。
(今日は疲れた…)
 
 *     *     *
 
 『起きろ!!!!』

その声で、諸葛亮は吃驚して目が覚めた。いつの間にか小屋の中で寝てしまったのである。

『あなたはどなたです!?』

前をよく見ると、背の少し高い娘が強い目でこちらを睨みつけていた。

『すみません。私は旅人です。夜は獣が現われて物騒なので、とっさにこの小屋にかけこんでしまいました。そして、気づいたら寝ていたのです』

嘘をついた。いきなり試そうと思っていた。

それを聞いた娘は少しの間、不審な顔をしていたが、

『わかりました。一晩の宿をお貸ししましょう』

と言い、諸葛亮に、精のつく飯をたっぷりと振舞ってくれた。

(これは美味い!)

諸葛亮の目が光った。ひとりの妻としては、料理の腕は合格のラインに入っていた。それに、醜女と言われていたが、それほどでもない。

(これは頂きかな…)

諸葛亮はそう確信した。

 
翌日、諸葛亮は早速プロポーズに入ることにした。返事は、OKではなかった。しかし、嫌だというわけでもなかった。

試験をして、それに合格したら妻になってもいいというのである。しかも、もうひとつ条件があった。

実は、求婚者は諸葛亮の他にも3人いて、もうひとつの条件とは、それら全員の首を持ち帰ってこなくてはならない。ということだった。

(文官志望の私に、そのようなことが出来るか…)

諸葛亮は内心心配だった。しかし、やって自分の実力を示すしかない。試験を受けることを、決意した。

『では、始めます…』

その合図でスタートした…。黄承彦の娘、改め月英は、手を上に振り上げた。すると、突然左右の森の中から、伏兵が現われた。

『この者達の攻撃を掻い潜り、私を倒してごらんなさい。そのときが、貴方の勝利の瞬間です』

諸葛亮は羽扇を手に取り、馬に跨った。そのとき、既に兵が襲いかかって来ていた。

その兵達を、羽扇で薙ぎ払い、諸葛亮は馬を前に出した。伏兵はあまり多くなかったので、簡単に振り切ることが出来た。

 
『クッ…!』

遥か前方に、月英が見えた。こちらに気付いた途端、迎え討とうとして、素早く武器を構えた。諸葛亮も構えを取りつつ馬を走らせる。

次の瞬間、二人がぶつかり合った。諸葛亮は素早く羽扇をはらい、持っていた月英の持っていた武器を叩き落とし、そのまま走り続けた。風のような勢いだった。

馬をUターンさせ、落ちた武器を拾おうと手をのばした月英に、精一杯の力で羽扇を喰らわせた。

月英は捨て台詞を言って逃げていった。諸葛亮は、あえてそれを追わなかった。彼女の力はまだこんなものではない、と、思っていたからである。


 暫くして、護衛兵から報告が入った。月英がすぐ近くに現われたという。諸葛亮はすぐに現場へ向かった。
 
そこには、発石車があった。それも、今まで戦で使われてきたものとは比べものにならないほど、精密に作られていたものだったので、諸葛亮は目を見張った。

(これは、確実にゲットしなければ…)

と思い、月英を探した。が、何処にも見つからない。おそらく、逃げたのであろう。諸葛亮はそれを探して、うろうろしていると、ひとりめの求婚者、馬岱が現われた。

名乗る前に始末し、首を掻き取った。そして、馬岱が向かって言った方へ方向を変え、そちらへ向かうことにした。
 
やっと月英に追いついた。彼女は、悔しさに塗れた顔をし、時には諸葛亮がスイスイと兵を倒していくのに驚き、大きく動揺している動作も見られた。

その後は、少し戦っては逃げ、少し戦っては逃げを繰り返し、4回目に月英の軍を打ち破ると、法正が現われた。おそらく第二の求婚者。純粋な文官である。

(文官のくせに生意気な…)

さっきのようにすぐに首を刈り、ひたすら前へ進んだ。もうそろそろ第五の月英に追いつくころである。

 
第五の月英が現われた。最初と比べ、かなりパワーアップしている。連敗したのがショックだったのか、武器を交わらせるときの力が異様に強くなっていた。

しかし、武器を弾くと、すぐに逃げてしまう。月英はさっきからこの戦法をとっていた。

兵法に詳しい諸葛亮はすぐに感づいた。

(これは、誘っているのだ…)

しかし、彼女の真の力はまだ出ていない。と思い、気にせずに同じペースで追いかけた。そろそろ出る、と思ったら、本当に出た。

三人目の求婚者、武の才にとても優れている厳顔である。老けていたが、文字通り、厳しい顔であった。

(爺さんに用はありません…)

薙ぎ払った。厳顔が、奇声を上げて倒れた。すかさず首を取った。普段は内気の諸葛亮も、このときばかりは自慢したくなった。

『敵将、討たせていただきました…』

残された厳顔の兵士達が殺到してくる。それと同時に、右からは馬岱の軍、左からは法正の軍が、

『亡き主のかたきは何処だ!!』

と言わんばかりに諸葛亮ただひとりを目標として三方向から突撃してきた。

流石の諸葛亮もこれには驚き、逃げようとしたが、馬が槍に突かれて地面に倒れ、それと同時に諸葛亮も地面に倒れた。絶対絶命の大ピンチになってしまった。

(あれをやるしかないか…)

深く考える前に、体の方が先に動いた。

『終わりにしましょう…』

 
月英はひたすら引いては攻撃を繰り返し、諸葛亮を目標地点へ誘いこむことに専念していた。今まで五回誘い込んできた。

しかし、次の諸葛亮がなかなか現われない。待ちきれなくなって見に行って見ると、そこには驚くべき光景が拡がっていた。

なんと、夥しい兵士達が、苦しそうな顔をしながら、地面に横たわっていた。何が起こってそうなったのか。

月英も、これには驚嘆し、諸葛亮の実力を嫌と言うほど思い知らされた。

ふいに後ろから気配を感じ、振り返ってみると、諸葛亮がいた。

『まだ、認めていただくわけにはいきませんか…?』

微笑みながら訊ねてきた。月英は返事に困った。どうやら、疾風の勢いで三人の婚約者を撃破したらしい。

『次…次で、勝負を決しましょう!』

そう言い、月英は奥へ消えていった。諸葛亮は、やれやれと月英の後を追いかけていった。

 
そこには、広い空間があった。目に飛び込んできたのは、月英、それを守る旗本。そして、見慣れない虎の形をした戦車。

速攻で決めようと思った諸葛亮は、素早く月英の正面に飛びつき、羽扇を躍らせた。

その踊りが、月英の武器によって封じられた。また力を入れて、武器を弾き飛ばす。そしてトドメの一撃を喰らわせる…そのときだった。

炎が、諸葛亮の体を包み込んだ。何があったのか、全くわからなかった。わかったのは、諸葛亮が炎を受けて飛ばされ、地面に叩きつけられたことだけである。

『虎戦車の破壊力、身をもってわかりましたか?』

『虎戦車…』

諸葛亮は、虎戦車の働きに、目を疑った。

(これを狙って私を誘いこんでいたのか…)

虎戦車が近づいた得物に炎を吐くという、恐るべきことが明らかになった。まともにぶつかっては危ない。

諸葛亮は、再びアレを使うことを決意した。アレならば、対象物に接近しなくても充分に威力を発揮できる…。

そう思っていたところで、月英が調子に乗って虎戦車から孤立し、武器を振りまわしながら近づいてくる。絶好の機だ。

諸葛亮の体が浮いた。そして羽扇を月英が向かってくる方向へ向けた。それを見ても、月英に恐れはなかった。

やがて、眩い閃光が飛んだ。それを正面からモロに喰らった月英は、地面に倒れこんだ。諸葛亮が慌てて近づいた。

『私の…完敗です』

『いいえ、貴方は素晴らしい才知を持っております。虎戦車には驚嘆しましたよ…』

そう言い、諸葛亮は彼女を暖かく迎えた…。臣下ではなく、妻として……





内容

 ▼劉備伝▼

Please wait...

内容

 ▼馬超伝▼

錦馬超的視点  〜葭萌関番外戦〜


文責:鳳雪連


虎髭の将が咆えた。

「一番多く敵を倒した奴が勝ちだからな!」



事の起こりはこうだ。

父や弟達が曹操に討たれた後、俺はしばしの流浪の後、

劉備殿の陣営に加わった。

そこまでは良かった。だが…どうも古参の将達が劉備殿が

俺を自分達と同列に扱った事で不満を持ったらしい。

四人の将達が「戦功による腕比べで勝負をしよう」と申し出てきた。

おそらくは俺の力量を試す為なのだろう…

だが「どこの馬の骨」とは‥奴ら洒落のつもりなのか?

‥まあ、いい。

腕に覚えがあるのは俺も同じ事だ。

うわべの言葉を幾百重ねるより、我が槍をもって答えるのみ!

「承知。我が槍の唸り、轟かせてみせよう!」



敵の兵卒達を蜘蛛の子のように散らす。

この程度の敵、俺にとって物の数ではない。

だが、それは他の連中にとっても同じ事の様だ。

他の4人からも次々名乗りが聞こえてくる。

膨れ上がる各々の撃破数を伝令が次々に伝えてきた。

しかし、そうでなくては張り合いが無い。

“錦馬超”の呼び名にかけて、この力見せてくれようぞ!

俺は裂帛の気合と共に、愛用の槍を振るった。

「わが槍よ!天高く咆えよ!」



終了を告げる合図が聞こえる。‥勝負は、ついた。

「お見事です、馬超殿」

四人の中でおそらく俺と一番歳の近そうな武将が歩み寄ってきた。

「うむ。おぬしの絢爛たる武、感服いたした」

その後ろに来ていた白髭の老将が感嘆の声を上げる。

「へっ!ちったあやれそうじゃねえか」

虎髭の将が負け惜しみともとれる台詞を吐く。

が、それも何故か今では不思議と気にならなかった。

最後に、長い髭の男が言う。

「我ら五人、諸共に猛虎となって戦場を駆けようぞ!」



こうして、俺はようやく陣営の将達に認められる事となった―




内容

 ▼黄忠伝▼

Please wait...

内容

 ▼姜維伝▼

姜維的視点  〜剣閣攻防戦〜


文責:つばさ


「もうだめじゃ・・・余は魏軍に降参するぞ」

「殿、お待ちください!

ああ・・・どなたか殿を止めてくだされ!」

そんな声が聞こえる・・・やはり魏に降伏なさるというのですか?殿。

*     *     *

私は姜維、字は伯約。

現在は、蜀の大将軍、つまりは軍事面での最高責任者の任に当たっています。

我が師・・・今は亡き丞相、諸葛亮先生の遺志を継ぐべく、

魏への北伐を幾度となく繰り返してきましたが、

なかなか戦果は上がりません・・・。

しかも・・・私はあくまで将軍である身なので、

宮中のことについて申し上げにくいのですが、

先帝劉備様の跡を継いだ現在の帝、

私の殿にあたる劉禅様は、すっかり宦官の虜となってしまい

まったく政務を省みていないご様子・・・。

軍事面と政治面でどんどん疲弊していく我が国、蜀。

かといって、私が政治面に手を出すこともできないし、

この北伐を止めるわけにもいきません。

丞相が血を吐くような努力をなさっても、成し得なかった魏討伐の悲願

・・・これを私自身の手でわが生涯を賭しても達成したいのです。

たとえ成功の可能性が一分しかなくても、蜀がある限り、私のいる限り、

その一分の可能性に全てをかけたいのです。

しかし、その思いとは裏腹に、

とうとう魏軍が蜀の都、成都にまで押し寄せてこようとしています。

成都への通り道であり最後の関門である剣閣を落とされたら、蜀の命運は・・・。

私がここを守り通す、自ら蜀の最後の砦となる覚悟を持って。

魏の大軍との戦い、しかし、我々には友軍などなく、私とわずかな側近の兵たち

とでなんとか迎撃するような形勢です。

それでも、私は必死に槍を振るいました。

蜀の国を守りたい、ただその一心だけで、

なんとか持ちこたえてきたものの、ある一報がわが軍に届きました。

「帝が、帝が・・・魏に降伏しようと成都からお出になりました・・・!」

なんと、やはり殿は降伏するおつもりなのか・・・。

これで、良いのですか?

先帝や丞相が血の滲むような思いで築き上げてきたこの国を

あっさりと投げ捨てる、と仰るのですか?

殿の降伏は私が止めるしかありません・・・

それに、この敵に囲まれた状態では、いつ殿に危険が及ぶかもわからないような状況、

私は蜀の帝である殿をお守りしなくてはなりません。

ある時は、銅鑼の合図で成都から魏の領地までを塞ぐ関門をとめ、

またあるときは、投降先の拠点をつぶしにかかり、

ありとあらゆる手段で、殿の投降を防ぎました。

ここで、蜀が滅亡してしまってはいけない。

そうしている内に、改めて思い知らされました、生まれ育ちは魏だけども、

もう私の心は蜀に忠誠を誓ったんだということを。

*     *     *

ある魏の将軍が私にこう言ったことを思い出しました。

「暗君と知ってなお尽くすか。お主ほどの者がなぜ?

魏に戻ろう、姜維殿。蜀とともに散ることはない!」

確かに、魏に降った方が自分の得になると言うのは理論的にはそうかもしれない。

ですが、私はきっぱりと、そして相手の目をじっと見ながら、言い返しました。

「この身、この命、全ては蜀のために!」

「丞相に誓ったのだ・・・、私は負けられない」と。

丞相・・・、あなたが守ってきたこの国と悲願、私が達成してみます・・・!






内容

 ▼魏延伝▼

反骨之将的視点


文責:Kou


魏延は、ただ前を見て、冷たい夜気の漂う五丈原を駆けていた。
本来なら彼の立場上たった独りで行動すべきではないはずであった。
駆ける足に迷いはない。
ましてや仮面に包まれた顔からは、迷いはおろか表情すら読みとるのが困難であった。
だが…、

「…何故ダ…?」

彼の呟いた言葉…、
そこには確かな迷いが込められていた。
思えば歯車が狂いだしたのは、魏軍が突如として退却を始めたときだったろうか…。

「…我…、一人…。」

ふと見回すと、あたりにいたはずの配下の姿が見あたらない。
完全なる孤立を無音の空気が引き立てる。
寂しい…、戦場において仮面の戦鬼を演じ続けてきた自分の中では、
とっくにそんな感情は捨て去ったモノと思っていた。
振り切る…、いや振り切ったように錯覚して、魏延はとにかく足を進めることに執着した。





「……。」

足を止める。
いや眼前に広がる軍を目の前にして、
止めざるを得なかったと言うのが正解であろうか。

「魏延将軍…、分かっているな?」

先頭の男が静かに問いかけてきた。
『味方』のはずの男だ。
しかし、魏延は、言葉に含まれた敵意を確実に捕捉していた。

「馬岱…。…何故ダ…?」

先刻呟いた言葉を男に投げかける。
魏延にしてみれば不可解なことだらけであった。
自分は、『いつも通り』に戦いをしていたに過ぎなかったのに…。

「問答無用!丞相の命により、貴様を斬る!」

馬岱が怒号をとばすと同時に、
控えていた兵士が一斉に魏延に躍りかかる。
だが、あっという間にその先陣が血風へと散っていった。

「我…『敵』…殺ス!」

幾多の場数を踏んだ猛将は、
己に向けられたまごうことなき殺意に防衛本能を解き放っていた…。





「その首、もらった!」

関興…。

「残念だったな!俺と遭ったのが、運の尽きだ!」

張ホウ…。

「その敵は、我らが引き受ける!」

姜維…。
昨日まで『味方』だった者達。
その全てが、迷うこと無い敵意を持って押し寄せる。
対する魏延も、迷いを捨て、『敵』の符号をそれらにあてがっていた。

「我…、『敵』…殺ス!」

そう言って先程斬り捨てたのは『かつて』自分のそばに控えていたはずの親衛隊であった。
自身の孤立、それを指し示す材料がまた一つ増える。
だが、魏延にとってもはやそんなことはどうでも良くなっていた。
彩る剣戟の火花、響き渡る断末魔の旋律、
その中心で最も夜の帳を赤く染め上げながら、
仮面の戦鬼は、戦場を突き抜ける興奮に身を任せる。

「我…、『敵』…殺ス!」

ただ、繰り返す言葉の底で巻き起こる『揺れ』を魏延は自覚しようとしなかった。
どこか悲しげで、そして迷いのある『揺れ』。
それを無理にでも押さえ込もうと、再び上げるは繰り返される非情の宣言。

「我…、『敵』…殺ス!」

たった一人の孤独な戦いは、当分終わりが見えなさそうであった。







「馬岱…、関興…、張ホウ…、そして姜維まで退けましたか…。流石ですね。」

涼やかな声が敵の戦列から響く。
特に大きいわけでもないのに、異様に重く、存在感のある、そんな声であった。
ただ興奮の赴くままに戦場を駆け抜けてきた魏延は、
なにか水を差されたかのように足を止め、双刃を振るう腕を休める。
思えば、凄まじい数の『敵』兵士も攻撃を止めている。
男は、ゆったりと魏延の元へと歩んできていた。

「…何故ダ…?」

白羽扇を携えた白面、白衣の男、諸葛亮に問いかける。
生来、折りが合わない相手であったが、
ここまで来て最後のわずかな『期待』は彼にかけられていた。

「反骨の相…。いつかは…、こうなると思ってました。」

物静かな言葉は、彼の『期待』をことごとく潰すものであった。
多くの『同胞』を手にかけた魏延を見据えても、その言葉に曇るところはない。

「違ウ!オ前ダ!オ前ガ…!」

激昂…。
反射的に魏延の口から激しい感情がほど走った。
だが、無情にも涼やかな声があっさりと遮る。

「慎みなさい、魏延。今のあなたは―――

この瞬間、今までにない緊張が五丈原を突き抜けていた。
微かな間をおき、言葉はつながれる。
そして、そこからまた『始まり』が来ることを、
その場に居合わせた誰もが自覚していた。

―――、一介の反逆者に過ぎないのですよ!」

諸葛亮が言うや否や、白羽扇から一条の光芒が魏延に向かって放たれる。
避ける魏延に、数多の刃が殺到し、雨のように矢が降り注ぐ。
新たな『始まり』は終局への一歩を踏み出していた…。





「ぐっ…!」

何度目の交錯の後だろうか。
膝をついたのは白づくめの軍師であった。
白衣の裂け目が見る見るうちに赤く染まってゆく…。

「私の天命は…、ここで尽きますか…。」

感傷的にも聞こえる呟き…。
魏延は、何も答えず、ただ静かに諸葛亮に背を向けている。

「あなたは、結局裏切ったのですね…。
 ですが…、それであなたは満足なのでしょうか?」

諸葛亮は、苦悶の表情で辛うじて言葉をつないでいた。
もう助からないだろう。
だが、その言葉は最後の一矢と言わんばかりに、魏延の心を確実に貫いていた。

「違―――。」

思わず、言い返そうと振り返った魏延だったが、
そこには物言わぬ屍が、死に顔も涼やかに赤に染まっているだけであった。
静寂がほんの数瞬、戦場を支配する。

「う…、うわあああ!」

耐えられなくなったのだろうか?
何人かの兵士が混乱も覚めやらぬまま、魏延に飛びかかってきた。
もちろん、そんな物では魏延に触れることすらかなわずあえなく散っていく…。

「全テ……、『敵』……。」

築かれた『敵』の屍の山。
己の咎を確かめるようにゆっくりとあたりを見回す。
そして―――、

「ウォォォォォ!我、戦ウ!全テ、斬ル!」

魏延の中で何かが弾けた…。
激しい戦いの連続で満身創痍の体を支えながらも、
それでも、上げずにはいられなかった魂の咆吼。

「我…、戦ウ…。」

同じ言葉の二度目…。
しかし、今度はどこか弱々しく、何か悲しげな、そんな色を帯びていた。
あふれ出した感情が雫となって、仮面の中を流れ出したのはそんな時であった…。



内容

 ▼ホウ統伝▼

鳳雛的視点


文責:サソリ屋


「ホウ統…」

「んー?」

 樊城の西の城壁の上から、諸葛亮のやつが呼びかけてくる。

 あっしはのんびり、城外からそれを見上げるばかり。

 諸葛亮は、手にした書簡をこちらに掲げて、

「このような行い…なにゆえです?」

 書簡にはこう記されてあった――挑戦状。九月二十五日夕刻、兵と策とを配して当地で待たれたし。

 見なくてもわかるよ。なんたって、そいつはあっしが書いたものなんだからねえ。

「いやなに」

 覆面の下でにんまりと笑い、風神の杖をあいつの方に向けてやる。鼻持ちならないその鼻ッ面へ。

「お前さんのその澄まし顔…一度でいいから泡を吹かせたいと思ってね」

「なるほど……」

 バチバチバチィ!

 雷の光波も出してないのに、あっしとあいつの視線がぶつかり火花を散らした。

「いいでしょう。ですが」

「なんだい?」

「ゲンコツ勝負は、勘弁してくださいよ」

「…………」

 泣かす。あっしは真剣にそう思った。
 


 刻は夕刻。

 城壁をなぞるように駆け抜ける影が、東へ向かって真っ直ぐに伸びる。

 身の丈の幾倍かに達するその『黒』。それはあるいは、鳳凰の雛が小柄な体躯の内側に秘めた、尋常ならざる神算鬼謀の暗示であったのかもしれない。

 ――とまあ、三流詩人はそんな感じに詠ったりするのかもしれないが。

「!」

 視界に入ってきた光景に、あっしはぴたりとその足を止める。

 真っ向きって設置されている、ずんぐりとしたデカい影。その奧にずらり光輝く、横一線の鋭い鏃。

 ――連弩!

「放てィ!」

 傍らの隊長が剣を振るうや、光が一斉にこちらへと疾る!

 なんのぉっ!?

「かあああああああああああああああっ!!」

 杖と五指とで印を切り、雄叫びと共に刹那の竜巻を発生させる!

 轟――!!

 あっしを射抜くはずだった鏃は、風の防壁に吹き散らされて、虚しく四方へ散らばった。

「やれやれ…」

『…………!』

 放った視線にひと舐めされて、その場に凍りつく兵士たち。

 ――いや!

 突如横から打って出た一団が、一直線にこちらへと迫る。

「ひょっ――」

 身をよじり、とっさに身をかわすまでもなく。

 ごあああああああっ!

 割って入ったいくつかの巨体が、吐いた炎で敵を撃退。

 虎戦車。

「――よしよし、いい子だ」

 一体の装甲をなでつけてやる。

まずは戦力差を補ってやろうと、西の武器庫からかっぱらってきたんだが――いやいや、こいつは予想以上だ。

まだ試作型らしいけど、完成がなんとも楽しみじゃないか。

 益州攻略に間に合うかねえ――そんなことを呟きながら、ちらりと城門に目を向ける。

「………」

 どうやら、開いちゃいないようだ。さっき見てきた西門も駄目で、ここも閉ざされているとなると――恐らくは、東も北も同じか。

「どうしたもんかねえ」

 呻く。

 攻城兵器が無い以上、これでは打つ手が無いわけなんだが――まあ、諸葛亮のこと。

どこかの門を開けといて、突入するなり伏兵てんこ盛りなんていう、安易なことはしないと踏んでいたけれど。

(まさかいきなり籠城するとは)

 あっしはぽりぽりと頭を掻いた。諸葛亮が手配していた北と南の援軍は、進入拠点を封鎖したから今頃立ち往生してるはず。

背後を衝かれる心配も無いし、しゃーない。ここはじっくり構えて……。

 と。

 ハラを決めかけたあっしの後ろに、大軍の気配が近づいてきた。

「!?」

 振り返る。どうやら諸葛亮の援軍のようだが……。

「どういうことだい?」

 慌てず騒がず、見物に来ていた城壁の上の諸葛孔明に言ってやる。

「援軍ですね」

「いやだって、さっき」

「通行止めを無視したようですね」

「教育が悪いねえ!?」

「はっはっは」

「笑ってるよ、こいつは…でもね」

 あっしが指さしたその先で、先頭で進んでいた虎戦車の炎が守備兵長を吹っ飛ばしていた。


 
 数刻後。

 虎戦車隊と――そして兵たちに見守られながら、あっしはゆったりと腕組みしていた。

 目の前で、少し傷んだ雲梯が、樊城の城壁にかけられていく。城内へと踏み込む我が道として。

 ――あれから。

 連弩を味方につけたあっしは、そっちに援軍の足止めを任せて城の東へと移動した。

 そこで視界に飛び込んできたのが、雲梯の入った格納庫だった、というわけである。

「軍師殿」

「ああ」

 傍らで呼びかけてくる伍長に、にっこりと笑みを向けてやる。

 こいつら――今でこそこうしているけど、元々は雲梯破壊のためにあいつが伏せていた兵だったりする。

「お力に…なれましたか」

「――ああ」

 あっしを見込んで…寝返ったんだと。

「後で諸葛亮にいびられるかもよ?」

「貴方が守ってくださいますから」

「………」

 やれやれ…。

 元々、時の利は我にあり――そして地の利は敵にあり。もうひとつの鍵、人の和を、あっしが引き寄せた、ってとこかね?

「………」

 嬉しい……もんだねえ。

「さあ!」

 あっしはくるりと振り返り、兵たちの方へと向き直る。

「こっから、一気に勝ち戦だよ!」

 おおおおおおおお――!

 天へと突き上げた風神の杖に、兵の剣戟が呼応する。

「ついて来な!」

 号令一下、あっしは雲梯を駆け上がる。

 先頭きって突っ込むあたりが、あっしが鳳雛――巣の中でばたばたと落ち着きの無い、まだまだヒヨッコだということの、証明なのかもしれなかったが。


 
「あぶないよっ!?」

 カッ――!

 嵐喚び込むは神の風。四方より跳び来た親衛隊を、問答無用で薙ぎ払う。

「――伏兵は今ので最後かい?」

「………」

 首を巡らし問いかけた相手は、無言で両の目をただ閉じるばかり。沈黙の肯定。

「正直、驚いています……」

 驚いていなさそうに、諸葛亮。

「あなたの力がこれほどとは……」

 言ってみればその一言は、事実上の降伏宣言なのかもしれなかった。

 が。

「ほーれ」

 落ち着き払ったそいつの態度に、あっしはやれやれと首を振る。

「またそうやって上からものを言う。お前さんのそういうところ、よろしくないねえ」

 そんなんじゃ勝った気がしない。あっし自身も、そして――

「そうですか……」

 こちらの意図を察してか、諸葛亮の眼がすぅっ、と細まる。

「どうしても、私と戦いたいと……」

「………」

 こきこきと準備運動をしながら、

「ああ」

 言う。

 諸葛孔明が泡を吹く瞬間。それをはっきりと見せつけてやらにゃ、あっしを見込んで寝返ってくれたあいつらを勝った気分にしてやれないだろ?この年中澄まし顔男。

「何故泡にこだわります」

「さあ」

 元々、この勝負は私怨――もっと言うなら単なるひがみで始まったもんだ。それがこういう展開になるとは、どんな軍師もそうそう予測できないだろうが。

 あいつらのためにも、闘らせてもらうよ。

「さ、どっちが上か、白黒つけようかね」

「勝利に泥を塗ることもありますまいに――」

 吹き抜ける嵐。舞い集う光。

 臥龍鳳雛の戦いが、天地を夢幻して、今――

 始まる。




内容

 ▼月英伝▼

黄月英的視点 〜虎戦車実証戦


文責:鳳雪連


皆様、お初にお目にかかります。

私の名は月英。孔明(諸葛亮)様の妻として御側にいさせて頂いております。

孔明様が三顧の礼を経て劉備様の元に軍師として

お仕えされたその日から、孔明様をお支えする為

私は今日まで新兵器の発明に着手しておりました。

そしてこの度、ようやくその兵器を実用までこぎつけたのです。

虎を模したこの兵器、その名も「虎戦車」の試作品を早速孔明様に見せた所

「見事な発明です、月英」とお褒めになって下さいました。

私、それだけで報われた気持ちになっていたのですが…

次の瞬間、孔明様はこう仰ったのです。

「‥ですが、まだその兵器の力は未知数。五虎将軍を相手に、その力、見せてください」

さすがは孔明様、その御もっともな御意見です。

私自分が少し恥ずかしくなってしまいました…

ですが、そんな事を言っている場合ではありません。

五虎将軍の方々をお相手に、この虎戦車の力を実証しなくては。

‥御覧になっていて下さい、孔明様!



最初に参られたのは張飛将軍。

「そんなガラクタ、通用するかよ!」などと

最初から決めつけておられます、失礼な。

なので私「虎戦車の威力、お見せしましょう!」

と虎戦車の炎で“少々”あぶって差し上げました。

そうしたらいくらも経たぬ内に

「ちきしょう!こんなハズは…」とその虎髭をチリチリにさせて

引き上げて行かれてしまわれました。

まだ色々と検証したい事は沢山あったのですが…

仕方ありませんので、残りの四将の皆様で行わせて頂く事に致しましょう。



そして数刻が経ち、虎戦車の一撃が最後に控えていた関羽将軍を見事に捕らえ、

虎戦車の実証は無事終了となりました。

孔明様も「さすがです、これは良い兵器となります」と満足そうに仰られています。

その一言で、私の今日までの苦労が報われました。



孔明様。私は常に、貴方様をお支え致します。





内容


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