貂蝉的視点 〜董卓暗殺戦〜
夜の淵から滑り落ち、更に深い常闇へ落ちて行く影が見えた。 誰か。それは自分ではない。 そう、自分ではないのだ。まだ。 * * * 月も無い、雨の夜だった。凍りつくような寒い暗闇を、わずかに置かれた松明が照らしている。 その炎から身を離し、一歩ずつ城内を進んでいく。 明かりなど必要無かった。人目を盗み、あるいは公然に、何十回この中を巡ったことか。 警備兵の数もおおよそ把握していた。呂奉先を側に置く時、必ずその人数は激減する。 そして最強の武将に護られるという安堵が、致命的な刃の進入を許す。 今日はそれを思い知らせる夜となるのだろう。 舞う時と変わらない衣装は、光に当たれば煌めき色づく。 だが闇に埋もれてしまえば、あるいは__ 中空を睨み、噛み締めるように呟く。 「この身を夜の闇に染め・・・」 染めてしまえば。染まりきってしまえば。 仮定で己の背を押さなければならないほど、覚悟は浅くない。 「・・・逆臣、董卓を討ちます・・・!」 囁くように叫ぶ。空気を震わせること無く、声は闇へ消えた。 城内の闇は、足音一つ気取られるような、神聖なる静寂に張り詰めたものでは無いからだ。 どんな魑魅魍魎も紛れられる澱んだ闇。だからその澱んだ一端も葬れる。 その次には、自分がその一端に加わる。 厭うものか。方法は違えども、望んできた結果をこの手で掴めるのだから。 錘を握り締め、感覚の唯一の拠り所と定める。 そして全ての感情を消し、闇へと紛れた。 * * * 夜の淵から滑り落ち、更に深い常闇へ落ちて行く影が見えた。 その影がはっきりと自分に重なるのを、当然とばかりに受け入れていた。 親衛隊は数人。不意を突けば倒せない人数ではなかった。 刺客に狙われ、命を落とす。今日ほど彼らにとって、それを案じない日はなかっただろう。 血が顔を濡らしていた。頬に付いたそれは、時代の流せない涙だった。 もうじき__全ての苦痛から、人々は解き放たれる。 「・・・なんじゃ?親衛隊どもよ、どうした__」 物音に気づき、一斉に自分の元を離れ、そして何も発しなくなった己の護衛に、太師はとうとう疑念の声をあげた。 いや、逆賊を太師などとは呼べない。 物陰からそっと離れると、ゆっくりと彼の元へ歩いていった。 「・・・何者・・・?」 「私ですわ、董卓様」 まばらに置かれた松明に、少しずつ姿は照らされ__ そして自分の表情に、深い影を作った。 「・・・・・!?」 足音ひとつ立てない様子と、明らかな返り血に濡れた姿に、ようやく董卓は気づいたらしい。 慄く表情に、満面の笑みを浮かべてみせる。 「董卓様。ますます御隆盛のこと、お喜び申し上げます」 「・・・ちょ、貂蝉、何をしようというのじゃ!」 「本日は、一番お喜び頂けるものをお持ちしましたの__」 まったくもって唐突な反逆を、太師は信じられないようだった。 それで良い__帝を戴いた時、民もまた同じ失望を味わったのだから。 眼前まで近づき、いつもの表情を浮かべた。 「平時好まれていらっしゃる、血の杯を。今宵満たして差し上げます」 言葉と同時に、錘はその腹部を貫く。 「董卓様。お覚悟願います・・・!」 抵抗は、最後まで無かった。 * * * 「・・・貂蝉・・・まさか貴様、初めからわしの命を・・・」 瀕死であろうとも、その姿に同情の念は無い。 何とも間の抜けた結末だろう。懐の刀に、自ら刺されてしまうとは。 けれど、血に塗れた刀はもう、錆び付いて何にも用いられない。 ただ、捨てられるだけ。 それでも、願うことから始まった。平和の一端となることを祈って、ここまで来たのだから。 「時代の夜明けの為、この身は闇に捧げました」 夜明けはただ一時で。いずれまた、夜の闇は訪れるにしても。 その輪廻に抗うのは、無駄なことだったとしても。 「さようなら、董卓様・・・」 一時の夜明けをこの世にもたらそう。 乱世という夜が、再び支配するまで。 訪れる陽の光が再び、乱世に流されることの無い、強き者を育ててくれればいい。 たとえ二度と、自分をそんな光の下に晒すことは出来なくても__ 流れる涙だけは、きっと透明なままで。もうじき訪れる朝日の視線を、強く返してくれるだろう。 いずれ衰えるもののみを賞賛されてきた自分にとって。それは何より望んでいた、恒久の形だった。 いつか誰かが打ち勝つ。その恒久を信じて、選ばれた太平の世を築く。 傷ついても、傷つけても、汚れても。どれも厭わない誰かが、それを築いてくれる。 何者にも屈しない強さは、確かに在る。 そして暮れない陽は無くても、明けない闇も無い。 * * * だから乱世よ。この蒼天の下に降り立てば良いわ。 必死の思いで脱出した先には、朝日が待っていた。 その傍らには、存在だけで己を主張する虹がある。 同じ色彩を地に立つ者に要求するその存在は、声も無く乱世の降臨を告げていた。 →内容へ
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大覇王的視点 〜十常侍討伐戦〜 「ぐぁっはっはぁっ!」 まあ、所詮は袁紹ごとき、わしの敵ではなかったのじゃがな! →内容へ
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大賢良師的視点 文責:つばさ 「蒼天すでに死す、黄天当に立つべし」 この天の言葉を掲げ、黄天の理想の世を作り出そうぞ!同志たちよ! 我は大賢良師こと、張角であーる。 まったく、嘆かわしい世になったものじゃ・・・・。 朝廷は賄賂や宦官がはびこり、悪政に民は皆倒れていきおる! そこで、この世に失望し、俗世を離れて隠遁しておった我の元に ある日、天の使いがやってきたのじゃ。 南華老仙と名乗る仙人が我に太平要術という書物を授けてくれた。 そして「天に代わって、人々を救済せよ」との言葉を残して、仙人は去っていった。 我は決意した。 この天の力、民のために役立てようと・・・。 我が力で、苦しむ民たちに天の光を授けた。 民たちは我らの助けが必要じゃったのだ。 我はこの民たちを見て立ち上がることにしたのじゃ! 「腐りきった朝廷などもはや不必要。これからは我らの時代じゃ」 いつしか、我の巻いている黄色い巾が同志たち、民たちにも広がった。 そして、人は我らをこう呼ぶ「黄巾党」と。 天の力は絶対であるぞ。 凡愚どもめ、見たか! この天の力と、黄巾の結束力。 我らが快進撃、ついに蒼天の世を滅さんとする! 「蒼天すでに死す、黄天当に立つべし」 この天の言葉がいよいよ実現する日がやってきたのだ! この戦いこそ、我らが最終決戦。 「太平の黄天を迎えるため・・・黄巾の子らよ! 蒼天の愚者どもの寄る辺を断ち切るのだ!」 官軍も各地から選りすぐった猛将を集め、 我らに対抗しおってきた。 ふ、しかし、我が炎の前では、所詮は俗物でしかあるまいて。 愚者どもは、我が裁きの炎の前に、皆燃え尽きてしまった。 天罰をくらわし、官軍は地に落ちた。 この戦、我らの勝利ぞ! 「張角様ーー!」 「黄天万歳!!」 黄巾の子らも喜びのあまり、叫び、踊りだした。 皆一斉に。 この結束力こそが、黄天の世を作り出す力となるのであーる。 「蒼天の愚かな獣たちは死に絶えた・・・ 今日が、新たなる世、黄天の始まりであるぅ!」 いくぞ!同志たちよ! 我らの手で新しい世を作り上げるのだ! →内容へ
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祝融的視点 文責:暇人 「 しゅ、祝融様!! 」 なんだい騒々しい、こんな夕暮れに。 「 も、孟獲様が! 蜀に捕まったとの報告です! 」 捕まった?―――――― アイツは今どこにいるんだい? 「 蜀軍本陣、あちらの方角にあります! 」 そうか、報告すまなかったね、アタシは行くよ。 「 そ、そんな無茶です! 今から行かれては向こうに着けばもう夜更けです! 」 ・・・・・・・・・。 「 さらに、戦力的にも不利です、どうか取りやめを! 」 ・・・ドサッ・・・・・・。 「 祝融・・・さ・・ま・・・ 」 悪いね、今は止まってらんないよ、 本陣へ突っ込むのは無謀・・・そんなの分かってる。 でも―――― アンタの生きた顔を見るのならお安いご用。 死んだ顔なんて、とても見れやしない・・・。 アンタはどうかはわからないけど、アタシはアンタといる時間、悪くないよ。 アンタがいろんな表情(かお)をしてくれるから、こっちもいろんな表情になるんだよ、 ―――――だから、生きてるんだよ、アンタ・・・いや、大王・・・。 →内容へ |
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